クルマ屋さんのちょっといい話

クルマトーク

もう20年近く前の話だが、わたしはとあるディーラーで自動車販売の営業をしていた。ちなみに国産メーカーだ。そこでとある高級スポーツカーを成約したときのこと。契約いただいたのは20代後半の独身男性。諸費用を含めると500万近い金額で、50万円ほど頭金をいただいて残りはローンを組んだのだが、ボーナスなしの60回払いで、月々の返済はかなり苦しい状況。

最近では若者のクルマ離れがすすんでいると言うが、まだバブルの余韻が残る20年前は、どうしてもこの車が欲しい、生活が苦しくなってもこの車に乗りたい、という、車に対して熱い思いを持った若い人たちも多かったのだ。だから、この高級スポーツカーを契約したお客様も、さして珍しいケースではなかった。

さて、そのお客様への納車日も決まったある日、ショールームにひとりのおじさんが訪ねてみえた。おじさん曰く、「ここで○○というモンが△△(車種)という車を買わなかったか?」というのである。詳しく事情を聞いてみると、そのおじさんは、高級スポーツカーを契約いただいたお客様が務める工務店の社長さんで、1万円渡すので、納車時にガソリンを満タンにしてやってくれと言うのだ。

給料を支払っている身だから、ローンが厳しいのはわかっている。納車のときくらいはガス代を気にせずに乗ってもらいたいから、本人には内緒で満タンにしておいてやってくれ。あまった小銭はアンタの小遣いでいいから、と。

ええ話しやないですか。

ということで、社長さんのご厚意にそって、納車時には満タン渡し。わたしもランチ1回分ほどのお小遣いをいただきました。ただ、契約者本人はガス満タンに気付かなかったのか、車を買った場合にはそれが普通だと思ったのか、特にそのことについての話が出ることはなかったけど、社長さんがナイショでと言っていたので、まあいいでしょう。

しかし、こんなちょっとしたいい話も、個人情報保護法にがんじがらめになっている現在では、ありえない話しなのかもしれないね。きっと今だと、大きな販社では、知らない人が、「○○という人が△△という車を契約しなかったか?」と訪ねてきても、それはお教えできません。となってしまうんだろうなぁ。世知辛い世の中や~。
 

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